先日、神奈川県横浜市にある横浜市立金沢動物園にmudefスタッフが行ってきました。

 

cmenu-49-p01.JPG 金沢動物園

金沢動物園は、横浜市の南部にある、金沢自然公園内にあります。同地区は、横浜市の中でも栄区・金沢区・港南区を中心とした市内最大の緑地に位置し、都会にいながら多様な生きものや自然に触れ合うことができるスポット「つながりの森」の拠点施設の一つでもあります。

金沢動物園の成立は1982年、横浜市立野毛山動物園の分園として開園した後、1983年に正式に金沢動物園として発足。翌1984年には年間を通じて動植物や自然を題材にした企画展を開催したりイベント企画などを実施する「ののはな館」もオープン。現在では動物園だけではなく、金沢自然公園のある円海山周辺に生息する鳥類・植物・昆虫などを紹介する「つながりの森」の拠点として、活動を広げています。

動物園ではアラビアオリックス、クロサイ、インドサイなど希少な草食動物41種を展示しています。動物を生息地別にアメリカ区・ユーラシア区・オセアニア区・アフリカ区の4大陸に分け様々な動物が飼育・展示されていますが、出来る限りその動物が本来いた環境に近い形で展示を行う工夫がなされており、山脈の岩場で生活していた動物と平地で育った動物ではその展示方法も大きく異なっています。この展示方法によって、来園者に対し、集約的な方法で情報を提供することが可能になります。

自分の目線よりも高い岩場に登っている動物を見られるというのは、動物への畏怖を感じられ、とてもダイナミックでした。その日がとても暑かったこともあり、奥の日陰でゆっくりしている動物はなかなか見つけられないこともあるほど。

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また、動物と人との間に檻の代わりに大きな堀を設置する「無柵放養式」という展示方法を取り入れ、柵の隙間から覗く形ではない、開放的な展示方法を実現しただけではなく、動物にとってもストレスのかからない展示を可能にしています。

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DSC_0009.JPG 種の保存
 

mudefでも、SATOYAMA BASKETのサイトでも紹介を行っている「絶滅危惧種」に指定されている動物も数多く見られました。看板で分かりやすく紹介がなされ、ただ展示を楽しむだけではない工夫がなされていました。

金沢動物園ではアラビアオリックス、クロサイ、インドサイなど希少な草食動物を展示し、「種の保存」に力を入れています。

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この「種の保存」とは、絶滅しそうな種が、絶滅しないように守る試みの事を指します。日本動物園水族館協会では、生物多様性委員会の種別調整者や日本国内の動物園・水族館が協力しながら、繁殖による飼育展示動物の維持、繁殖した動物による野生群の回復、調査研究とその発表などの取り組みを進めています。

国内で飼育している絶滅の恐れのある世界の野生動物の中から、日本の動物園・水族館が主体になって守るべき動物、約150種を選び、種の保存対象種としています。各動物園や水族館では、この希少種動物の戸籍簿を作成(血族登録)。これは日本だけではなく、世界の動物園・水族館の動物の飼育状況や遺伝的つながりが記録されていて、動物たちのよい結婚相手を探すのに役立てられています。血統登録の対象種はすべて、種ごとに繁殖計画を作り、動物園・水族館での増殖に取り組んでいます。希少な動物を絶やさず増やしていくために、動物園や水族館同士で動物を貸したり借りたりするブリーディングローンという制度をつくり、世界中で協力して種の保存を実行しています。

こうした取り組みは、希少動物が世界共通の財産だという考えに基づいています。そしてこの希少動物を守る取り組みの舞台が、金沢動物園を始めとした日本各地の動物園、水族館なのです。

 

DSC_0015.JPGのサムネール画像 動物園の役割
 

以前SATOYAMA BASKET内のコンテンツ「読む」で、川端裕人さんの「動物園にできること―「種の方舟」のゆくえ」という本をご紹介しました。

日本の動物園関係者に当時大きな衝撃を与えた、と言われるこの本では、川端さんが、「動物達が本来生息していた場所から強制的に日本へ連れてきて、莫大な手間とコストを掛けながら動物園を運営する必要があるのか?」といった疑問の答えを探るため、動物園先進国と言われるアメリカの様々な動物園の実態を調査することで、動物園の意義や日本の動物園のあり方を模索しています。

川端さんによれば、アメリカではいち早く、檻の中に入れて動物を展示する動物園の形から、「生態型展示」と呼ばれる動物の生息環境をできるだけ忠実に再現する展示方法がとられるようになりました。動物の生態を見せる展示方法にすることで、その動物の生きてきた環境や現状を学ぶ「環境教育」も動物園の重要な役割と考えられるようになります。

また、「絶滅危惧種」のような絶滅が危惧される動物を保護し、守る「保全の場」としても動物園は捉えられるようになりました。1993年に、世界動物園機構とIUCN(国際自然保護連合)が「世界動物園保全戦略」にて、動物園は「環境教育」と「種の保存」が役割であると宣言しました。

世界各地で、ブリーディングローンが実施されることで、希少動物のペア飼育や群飼育が進み、現在ではたくさんの動物が繁殖に成功するようになりました。国内の野生動物を守るために、地域に出かけて調査をしたり、地域住民と一緒に保護活動をする「域内保全」や、生息地で保護することが難しい動物を、動物園や水族館で繁殖させて絶滅から守る「域外保全」の活動も、積極的に行われています。

「域内保全」により得た知識によって「域外保全」が成功したり、「域外保全」により生まれた動物を地域に復帰させて自然を守ったりと、「域内保全」と「域外保全」はともに助け合って自然保護が進んでいます。

動物園は、単に展示や飼育だけではなく、希少種を守り、保全する役割を負っているのです。

 

DSC_0012.JPG 日本の動物園

日本の少子高齢化やレジャーの多様化、メディアが発達したことにより動物園に行かなくても動物を見ることができるようになった、といった変化によって、動物園の来園者数は減少傾向で推移していました。

1970年代には動物権利運動に伴い、ヨーロッパ―で始まった「動物園廃止運動」は、動物園の飼育動物の環境改善を目指す動物福祉の向上を求めるものでした。この活動は1980年代にはアメリカで動物園の展示技術の向上につながっています。金沢動物園の「無柵放養式」もそうした展示技術の改良の試みの中から生まれた方式です。

日本で展示方式の改良による、動物園の意義の見直しのきっかけは、北海道の、旭川市旭山動物園の大ブレイクでしょう。

来園者数の減少により、一度は廃園の危機に追い込まれていましたが、従来の動物の姿を見せることだけに主眼を置いた展示から、創意工夫を重ね、動物の本来の行動を見せる「行動展示」を実現する施設づくりに転換したことで、2000年代に入ってからは月間入園者数が常に全国で上位に食い込むほどに人気の施設となりました。

この旭山動物園のブレイクは、日本の動物園界全体に活気を与え、全国の多くの動物園がさまざまな工夫を競い、魅力的な動物園づくりが活発化するきっかけとなりました。

金沢動物園でも、無柵放養式展示以外にも、様々な取り組みが行われています。その一つに、横浜の豊かな森を利用する形で進められた、2008年度から進められている、「エコ森プロジェクト」です。「森とエコ」をテーマに、見て楽しむだけの動物園ではなく、金沢自然公園内の植物区と動物園の枠を取り払い、これまでの既成概念にない動物園を目指して、環境行動への気づきの誘発や活動支援など、環境教育の場と機会を市民に提供するセンターとして活用する再生計画を策定しました。ゾウなど動物のフンの堆肥化や、動物を発見・観察できるウォーキングスルー式の森の生 態展示などいくつかの試みを見ることができます。

金沢動物園は、横浜市が進める「つながりの森」の拠点のひとつです。

「動物園にできること―「種の方舟」のゆくえ」では、動物園の意義に対して明確な答えは出されておらず、動物園に関わる全ての人がこうした疑問を常に抱きながら、より良い方法を探っている、といった内容でまとめられています。

金沢動物園では、その回答のひとつに、希少動物の保全以外に、その豊かな自然を活かした動物園のあり方をしめしました。

金沢動物園を歩きながら、道々で動物のフンが対比として使われていること、それを虫がエサをして豊かな土壌を生み出していることを紹介しているパネルなどを見かけることができました。また、動物園内では動物やエコをテーマにしたアート作品の展示など、自然と動物を様々な形で紹介する試みが行われています。

動物園は様々な可能性があります。ぜひ一度金沢動物園に足を運んでみてください。